前世界記録保持者でリオデジャネイロ五輪、東京五輪とオリンピック2連覇中のキプチョゲ選手。
マラソン参戦19回のうち、優勝はなんと15回!
「王者」と呼ぶにふさわしい強さです。
現在は世界歴代2位の記録ですが、今もマラソンの世界記録保持者と言えば、キプチョゲを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
この記事では、キプチョゲ選手が世界新記録を出した大会を改めて振り返ります。
また、非公認ではあるものの2時間切りを達成した大会は、どんなルールで行われた大会だったのかもあわせてお伝えします!
キプチョゲのプロフィールと経歴
- 名前:Eliud Kipchoge(エリウド・キプチョゲ)
- 国籍:ケニア
- 種目:長距離走・マラソン
- 生年月日:1984年11月5日
- 年齢:39歳(2024年3月現在)
- 出生地:ケニア・リフトバレー州(現・ナンディ県カプシシイワ)
ケニアの南西部にある丘陵地帯、ナンディ地区に生まれたキプチョゲ選手。
身近に偉大なランナーを見て憧れ、自分も夢をもって走り始めます。
正式に競技を始めたのは高校卒業後にパトリック・サングコーチに見出されてから。
3000m・5000mを中心とした長距離選手としてすぐに頭角をあらわします。
18歳で出場した2003年の世界選手権5000mでは、大会記録で金メダル。
2004年のアテネ五輪5000mで銅メダル、2008年の北京五輪5000mでは銀メダルをとっています。
しかしなかなか金メダルに手が届かず、2012年のロンドン五輪でケニア代表を逃してしまったことを機に、マラソンに転向しました。
初マラソンとなる2013年のハンブルクマラソンで大会新記録の2時間5分30秒で優勝。
同じ2013年9月のベルリンではマラソン2度目にして2時間04分05秒、当時の世界歴代4位の好タイムを叩き出します。
そしてこれまでに2度、世界新記録(当時)を樹立し、非公認ながら人類で初めて2時間切りを果たしています。
キプチョゲの世界新記録(当時)はいつだった?
2018年ベルリンマラソン(2時間01分39秒)
最初の世界新記録は、2018年のベルリン。33歳。
従来の記録を1分以上も縮める世界新で、初めて2時間1分台に突入した選手となりました。
レースは中間地点まではほぼ設定タイムで進みますが、30kmまでのはずのペースメーカーが25kmでペ全員脱落。
以降は、キプチョゲ選手がレースを進めま、従来の世界記録に遅れることなく快調に飛ばします。
最後の2.195kmは、5km換算で13分55秒ペースという脅威のスプリットを刻み優勝。
2位のキプルト選手(ケニア)とは5分近くもの差をつけていました。
2013年のベルリンで世界記録を樹立したキプサング選手(ケニア)は3位でしたが、
「私たちがキプチョゲのペースで走ろうとしたら、おそらく完走はできないだろう。」
とレース後にコメントしたほどの衝撃的な記録でした。
2022年ベルリンマラソン(2時間1分09秒)
2度目の世界記録は、2016年のリオ・2021年の東京と五輪2連覇という偉業を達成後の、2022年のベルリンマラソン。
37歳のベテランですから驚きます。
このレースでは序盤からハイペースで飛ばします。
5km地点を14:14、10km地点を28:22で通過すると、中間地点を地点を59:50で通過。
2時間切りに期待が高まります。
しかしそこから、わずかですが徐々にペースダウン。
そのまま遅れていくかと心配されましたが、25km以降はペースを維持して、自身の世界記録を30秒更新してフィニッシュ。
2位のコリール選手(ケニア)には5分近くの差をつけました。
この2時間1分09秒の世界記録は、2023年10月にキプタム選手(ケニア)が2時間0分35秒という人類初の2時間0分台で走り、破られます。
キプタム選手はまだ24歳と若く、近い将来の2時間切りが期待されましたが、悲しいことに2024年2月、自身の起こした交通事故で亡くなってしまいました。
※キプタム選手の事故については、こちらの記事をご覧ください。
キプチョゲの2時間切り(非公認)の大会は何?
キプチョゲ選手は非公式ながら、34歳の時に人類初のマラソン2時間切りを達成しています。
これまで研究者などから、生理学的に人類の2時間切りは不可能と言われてきました。
平均時速21.18kmで2時間走り続けることに、肉体が耐えられないだろうという理屈です。
しかしキプチョゲ選手は、成し遂げます。
それは、INEOS社主催の特別レースでした。
- 日時:2019年10月12日 8:15~
- 大会:イネオス1:59チャレンジ
- 場所:ウィーン
- 記録:1時間59分40秒
ウィーンのフラットな直線コースで、両ロータリーで折り返す1往復9.6km× 4+αの42.195km。
2時間を切るため、次のような特別ルールで走りました。
- 好条件で走れるよう予備日を8日設ける。
- キプチョゲ選手1人に対してペースメーカーが41人(6人は補欠)。
- 一定のペースを刻むテスラの自動運転車を先導車に採用。
- 車の背面に1kmごとのラップを表示する電光掲示板を装備。
- レーザーで先頭のペーサーの走行位置を示し続ける。
- 車の後ろではペースメーカーが入れ代わり立ち代わりX字のフォーメーションを組み、キプチョゲ選手の空気抵抗を抑える。
- ペーサー交代のタイミングも綿密に計画。
すごい光景ですね。
このような特別ルールなため公認記録にはなりませんが、これまで考えられていたエリートアスリートの身体能力の限界を突破したことは事実で偉業です。
キプチョゲはレース後に、
「私は世界中の人々に、 “人間には限界が無い” という前向きなメッセージを残したいと思って走っていた」
と話しています。
当日は約12万人のファンが沿道に集まり、キプチョゲを大声援で応援。
母国ケニアの都市エルドレットでは大変な盛り上がりになりました。
Situation on the ground in Eldoret Uasin Gishu county as @EliudKipchoge approached the finish line🎉🎉💪💪 #Eliud159 #NoHumanIsLimited @MichKatami @iaaforg @INEOS159 @humphkj pic.twitter.com/ac2NbCACzy
— TeamKenya (@OlympicsKe) October 12, 2019
この歴史的ランのラスト1kmは、YouTubeで900万回を超える視聴回数を記録しています。
感動的です。
キプチョゲの主な実績
トラック
年 | 大会 | 場所 | 種目 | 結果 | 記録 |
---|---|---|---|---|---|
2003 | 世界陸上選手権 | パリ | 5000m | 金 | 12:52.79(大会記録) |
IAAFワールドアスレチックファイナル | モンテカルロ | 5000m | 1位 | 13:23.34 | |
2004 | オリンピック | アテネ | 5000m | 銅 | 13:15.10 |
IAAFワールドアスレチックファイナル | モンテカルロ | 3000m | 1位 | 7:38.67 | |
2005 | 世界陸上選手権 | ヘルシンキ | 5000m | 4位 | 13:33.04 |
IAAFワールドアスレチックファイナル | モンテカルロ | 3000m | 2位 | 7:38.95 | |
2006 | 世界室内陸上選手権 | モスクワ | 3000m | 銅 | 7:42.58 |
IAAFワールドアスレチックファイナル | シュトゥットガルト | 3000m | 7位 | 7:41.46 | |
2007 | 世界陸上選手権 | 大阪 | 5000m | 銀 | 13:46.00 |
IAAFワールドアスレチックファイナル | シュトゥットガルト(ドイツ) | 3000m | 6位 | 7:50.93 | |
5000m | 5位 | 13:40.49 | |||
2008 | オリンピック | 北京 | 5000m | 銀 | 13:02.80 |
IAAFワールドアスレチックファイナル | シュトゥットガルト | 5000m | 5位 | 13:24.13 | |
2009 | 世界陸上選手権 | ベルリン | 5000m | 5位 | 13:18.95 |
IAAFワールドアスレチックファイナル | テッサロニキ | 3000m | 9位 | 8:07.26 | |
2011 | 世界陸上選手権 | 大邱 | 5000m | 7位 | 13:27.27 |
マラソン
年月 | 大会名 | タイム | 順位 | 備考 |
---|---|---|---|---|
2013.05 | ハンブルクマラソン | 2:05:30 | 優勝 | |
2013.09 | ベルリンマラソン | 2:04:05 | 2位 | 世界歴代4位(当時) |
2014.04 | ロッテルダムマラソン | 2:05:00 | 優勝 | |
2014.10 | シカゴマラソン | 2:04:11 | 優勝 | |
2015.04 | ロンドンマラソン | 2:04:42 | 優勝 | |
2015.09 | ベルリンマラソン | 2:04:00 | 優勝 | 世界歴代6位(当時) |
2016.04 | ロンドンマラソン | 2:03:05 | 優勝 | 世界歴代2位(当時) |
2016.08 | リオデジャネイロオリンピック | 2:08:44 | 優勝 | |
2017.09 | ベルリンマラソン | 2:03:32 | 優勝 | |
2018.04 | ロンドンマラソン | 2:04:17 | 優勝 | |
2018.09 | ベルリンマラソン | 2:01:39 | 優勝 | 世界新記録(当時) |
2019.04 | ロンドンマラソン | 2:02:37 | 優勝 | |
2020.10 | ロンドンマラソン | 2:06:49 | 8位 | |
2021.04 | NNミッションマラソン | 2:04:30 | 優勝 | |
2021.08 | 東京オリンピック | 2:08:38 | 優勝 | |
2022.03 | 東京マラソン | 2:02:40 | 優勝 | |
2022.09 | ベルリンマラソン | 2:01:09 | 優勝 | 世界新記録(当時) |
2023.04 | ボストンマラソン | 2:09:23 | 6位 | |
2023.09 | ベルリンマラソン | 2:02:42 | 優勝 |
まとめ
この記事では、キプチョゲ選手が世界記録を出したレース、非公認ながら2時間切りを達成したレースについてお伝えしました。
37歳の現在も王者として君臨するキプチョゲ選手。
まだまだこれからの記録も楽しみです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。